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更級日記

(十一)三河

 そこより「ゐのはな」という、言いようもなく難儀な坂を上ってしまえば、三河の国の高師たかしの浜というところ。
 八橋やつはしは、名ばかりで橋は跡形もなく、何の見どころもない。
 二村山の中に泊まった夜、大きな柿の木の下にいおりを作ったので、夜もすがらいおりの上に柿が落ち掛かったのを、人々が拾いなどする。
 宮路の山というところを越える折は、神無月の下旬であるのに紅葉も散らないで盛りである。
 
  嵐こそ吹きこざりけれ
   宮路山 まだもみぢ葉の 散らで残れる
 
(嵐が吹いてこなかったのだ。宮路山には、まだもみじ葉が、散らないで残っている)
 
 三河と尾張との間にある志香須賀しかすがの渡りは、誠に、しかすがさすがに渡るのを思い煩うてしまいそうで面白い。
 尾張の国、鳴海なるみの浦を通っていると、夕潮がただ満ちに満ちてきて、
「こよい宿ろうにも、中ほどで潮が満ちてしまえば、ここを過ぎられそうもない」
と全員うろたえて、走って過ぎた。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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