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更級日記

(三十一)鹿の音

 暁になってしまったろうかと思っていると、山の方より人があまた来るような音がする。
 驚いて見やったところ、鹿が縁のもとまで来て鳴いているのは、こう近くてはゆかしくない声である。
 
  秋の夜の 妻恋ひ兼ぬる鹿の音は
   遠山にこそ聞くべかりけれ
 
(秋の夜の、妻恋を遂げ得ぬ鹿の声は、遠い山にこそ聞くべきものだったのだ)
 
 近辺まで知人が来て帰ったことを聞いたので
 
  まだ人目知らぬ 山辺の松風も
   音して帰るものとこそ聞け
 
(人をまだ見知らぬ山辺の松風でも、音沙汰があって帰るものだと聞きますよ)
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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