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更級日記

(三十八)常陸守

……父が  になれば、はなはだやんごとなく自分もなることであろう……などと、ただ当てどもないことを思って過ごしていたのに、父は辛うじて、はるかに遠い東国に任ぜられて
「……いつか思うように近いところに任ぜられたら、まずはあなたを懇ろに取り扱ってこの胸のつかえを下ろし、それから連れて下って、海や山の様子を見せるのはもちろんのこと、この我が身よりも高く丁重にもてなしてみせよう……とは年来思っていたのだが、私もあなたも宿世が拙かったために、結局はこうしてはるかな国に任ぜられてしまった。あなたの幼かった時ですら、東国へ連れて下ってからは、いささかでも病気をすれば、この子を見捨ててこの国に惑わせることになるのであろうかと思うたものだ。よその国の恐ろしいのにつけても、もし我が身一つであれば煩いもなかったろうが、狭苦しいまでに引き連れていて……言いたいことも言えず、したいこともできないで悩ましいものよ……と心を砕いていたのに、あなたが大人になった今はなおさら、連れて下っては、私の寿命のほども知れず、京の内にてさすらうならば例のことだが、東国の田舎人になって惑うのは悲しかろう。京といっても、頼もしく迎え取ってくれそうに思う親類もなし、さりとて、僅かに任ぜられた国を辞し申し上げるべきでもないので、あなたを京にとどめたままで、永い別れとなってしまいそうなのだよ。京にといっても、しかるべく取り扱った上でとどめておけようとは思いも寄らぬことだ」
と夜昼嘆かれるのを聞く心地は、花紅葉の思いも皆忘れて、悲しくて悲しくて。けれど、どうしようもない。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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