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更級日記

(四十三)清水

 こうして物を思い続けているのに、なぜ参詣もしなかったか。
 母はひどく昔めいた人で、初瀬には「まあ恐ろしい。奈良坂で人に捕られたらどうします」石山は「関山の向こうは本当に恐ろしい」鞍馬くらまは「そんな山、連れて出るのが本当に恐ろしいよ。お父様が帰京なさってからならともかく」と、世離れた人のように煩わしがって、僅かに清水きよみずに私を連れて籠もったものである。
 そこでも、例の癖には、正しかろうことは思い申し上げられもしない。
 彼岸の折で、はなはだ騒がしく、恐ろしくまで思われるまま、しばし寝入っていると……
 
 帳台の方の犬防ぎの内で、青い織物の衣を着て、錦を頭にもかぶり足にも履いている、別当とおぼしい僧が寄ってきて
「行く先の哀れであることも知らず、そんな由もないことばかりを」
と憤って帳台の内に入ってしまう……
 
と見て目を覚ましても、こんなことを見たとも語らず、気にも留めないでそこを退出した。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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