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更級日記

(六十五)修行者めいて

 二三年、四五年隔てていることを次第もなく書き続ければ、そのまま続いて立ってゆく修行者めいているが、そうではなく、年月も隔たったことなのである。
 春頃、鞍馬に籠もった。
 山際が一面にかすみ、のどやかなところで、山の方より僅かに野老ところなど掘って持ってくるのも面白い。
 そこを出る道は、花も皆散り果てていたので何ということもない。
 神無月ばかりにまた詣でたけれども、道中の山の有り様はその頃の方がはなはだ勝るものなのである。
 山の端は錦を広げたようである。
 たぎり流れてゆく水は、水晶を散らすように激しく湧いたりして、どこよりも優れている。
 参着して僧坊に行き着いた折には、時雨のかかっている紅葉が類いなく見えるのである。
 
  奥山の紅葉の錦
   ほかよりも いかにしぐれて 深く染めけむ
 
(この奥山の紅葉の錦を、いかにしぐれて、よそよりも深く染めたのだろう)
 
と見やられるのである。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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