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更級日記

(六十七)また初瀬へ

 また初瀬に詣でてみれば、初めてのときよりは格別に心強い。
 ところどころで饗応きょうおうなどされてとっとと行くこともできない。
 山城の国は祝園ほうその小楢こならの森など、紅葉が至って美しい折であった。
 初瀬川を渡るにも
 
  初瀬川立ち返りつつ訪ぬれば
   杉のしるしもこの度や見む
 
(初瀬川に返すこの波のように繰り返し訪ねたのだから、この度はあの杉のしるしをも見るでしょうか)
 
と思うのも至って頼もしい。
 三日そこにいて退出したところ、例の奈良坂の都側にある小家などには、この度は至ってともがらも多いので宿れそうになく、野中に仮初めにいおりを作って私らを据えたので、従者はただ野にいて夜を明かす。
 草の上にむかばきなどを敷いて、上にむしろを敷いて、至って粗末に夜を明かす。
 頭もじっとりするほど露が置いている。
 暁方の月は本当に澄み渡り、喩えようもなく美しい。
 
  行方なき旅の空にも後れぬは
   都にて見し有明の月
 
(当てどない旅の空にあっても後れてこないものは、都で見ていた有明の月だ)
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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