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源氏物語

若紫(四)

紫上、手習のついでに源氏に返歌を書く。
国立国会図書館デジタルアーカイブより
 女君は、男君がおいでにならないなどして物寂しい夕暮れなどばかりは、尼君を恋うてお泣きになったりもするけれど、父宮のことは殊にお思い出しになることもない。元より極まれにお会いになるだけであったから、今はただこの継親ままおやのそばにいて、はなはだむつんでおいでになる。お帰りになれば、まず出迎えて優しく語らい、懐に這入って坐っていても、煩わしく恥ずかしいとはいささかも思っていない。そんなふうではなはだ愛らしいものであった。「さかしらな心があり、あれやこれやと難しいたちになってしまえば、自分の心地としても、少し案にたがう節も出てこようかと気が置かれ、恋人の方にも、恨みがちになったり思いの外のことがおのずから出てくるというのに、本当にかわいらしい遊び相手だ。娘などでも、やはりこれほどになれば、心安く振る舞ったり、隔てのない様子で起き伏ししたりはできまいに、これは、本当に勝手の違ったまな娘である」と思っておいでになるらしい。(若紫終)
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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