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源氏物語

賢木(三)

秋、源氏、雲林院うりんいんに詣でる。そこの紅葉を藤壺に奉る。
国立国会図書館デジタルアーカイブより


 一通りのことや、東宮に関することなどについては、信頼しているというふうで、生真面目な返書ばかりを藤壺はおよこしになったので、源氏は「誠におもんぱかりの賢いことよ。いつも変わらずに」と、恨めしくは御覧になるけれど、何事にもしばしば後ろ盾になってこられたのだから「人からいぶかしく見とがめられては」とお思いになって、藤壺が御退出になるはずの日には参上した。まず主上の居室に参上したところ、静かに過ごしておいでになる折で、昔や今の物語を申し上げる。お姿も、故院に本当によく似ておいでになって今少し艶に美しいが添うて、慕わしく和やかでいらしたのである。お会いになってみると互いに感慨も深い。朧月夜のかんの君と、なお絶えていない事情も聞こし召し、その気配を御覧になる折もあるのだけれど、「いやいや、今始めたことならともかく、誠に、心を交わしても似合わしいような、二人の取り合わせではないか」と思うようにおなりになっておとがめにならなかったのである。
 よろずのお話をしたり、学問の道ではっきりしないところを問うたりなさって、また、好き者めいた歌物語なども互いに語り合われるついでに、あの斎宮がお下りになった日のこと、お姿のかわいらしくていらしたことなどをお語りになるので、源氏も打ち解けて、野宮のあの物悲しかったあけぼののことも皆口に出しておしまいになった。二十日の月が次第に差し始めて面白い折なので、遊びなどもしたくなる折だなと主上は仰せられる。

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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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