源氏、二十六歳、隠棲。その二三日前、左大臣の御殿に渡る。
二条院に帰って紫上のところにとどまる。
次の日、花散里のところに渡る。二条院に帰って所領を紫上に預け渡す。
文を朧月夜のもとに残す。
北山の桐壺院御陵に参る。
文を朧月夜のもとに残す。
北山の桐壺院御陵に参る。
文を王命婦に遣わして東宮に啓する。
紫上、別れを惜しむ。
源氏、申の時に須磨の浦に下着 。
紫上、別れを惜しむ。
源氏、申の時に須磨の浦に
長雨の頃、使者を立てて文を京の所々に遣わす。
文を六条御息所に奉ってまた御息所より使いがある。
花散里ら、文を見る。
文を六条御息所に奉ってまた御息所より使いがある。
花散里ら、文を見る。
文月、朧月夜、内裏に帰参。
須磨では、たださえ秋風が気をもませるのに、海は少し遠いのではあるが、在原行平 中納言の、
関 吹き越ゆる
(関を越えて吹く)
と言ったとかいうあの浦風に加えて波が、夜な夜な寄せてその音は本当に近くから聞こえるようで、またとなく悲しいものはこんなところの秋であった。源氏のお前は至って人少なでそれも皆休んでいるのに、独り目を覚まして、枕をそばだてて四方 の嵐をお聞きになると、波がただそこに立ってくる心地がして、涙が落ちたとも思われないのに枕も浮くばかりになってしまった。琴 を少しかき鳴らされたが、我ながら至って恐ろしく聞こえるので、弾きさされて
恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は
思ふ方より風や吹くらむ
(人を恋い、思い煩って泣くような音を、この浦の波が立てるのは、私の心に掛かる方から風が吹いているからであろうか)
と歌っておいでになると人々は、目を覚まして、結構なことに思われるので、忍ばれず、どうにもならずあまねく起き直ってははなを忍びやかにかんでいる。
(関を越えて吹く)
と言ったとかいうあの浦風に加えて波が、夜な夜な寄せてその音は本当に近くから聞こえるようで、またとなく悲しいものはこんなところの秋であった。源氏のお前は至って人少なでそれも皆休んでいるのに、独り目を覚まして、枕をそばだてて
恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は
思ふ方より風や吹くらむ
(人を恋い、思い煩って泣くような音を、この浦の波が立てるのは、私の心に掛かる方から風が吹いているからであろうか)
と歌っておいでになると人々は、目を覚まして、結構なことに思われるので、忍ばれず、どうにもならずあまねく起き直ってははなを忍びやかにかんでいる。