師走、二条院にあって紫上と語る。
雪まろげ。
雪まろげ。

昔の人々について紫上と物語をする。
・・かきつめて昔恋しき雪もよに
・・・あはれを添ふる・
(昔の恋しさも積もるようなこの雪降りに悲しみを添えている、浮き寝の
部屋に這入っても藤壺の宮のことを思いつつお休みに
「漏らしはしまいとおっしゃったのに、浮き名が隠れものうございますので、恥ずかしく苦しい目を見ますにつけても恨めしゅうございます」
とおっしゃる。返事を申し上げようとお思いになると、襲われるような心地がして、紫の女君が
「これは、どうしてこんな」
とおっしゃるので目が覚めて、はなはだ口惜しく、胸が、置き所もなく騒ぐので、それを抑えていても涙は流れ出てしまった。ただ今も、ますます涙にぬれている。女君は、どうしたことかとお思いになるけれど、源氏は身じろぎもせず伏したままである。
・・解けて寝ぬ寝覚め寂しき冬の夜に
・・・結ぼほれつる夢の短さ
(心置きなく寝ることもできず寝覚めも寂しい冬の夜は、結ぼれる夢も短いことだ)
かえって物足りなく悲しくお思いになるので、早く起き出されて、それとなく所々で
「苦しい目を見せてくださいましたねと恨んでいらしたが、そうも思われることであろう。お勤めもなさり、よろずに罪の軽そうであった御境遇でありながら、あの一事のためにこの世の濁りをすすぐことがおできにならなかったのであろう」とその訳をお考えになるにもひどく悲しいので、「どのようなことをしても、知る人もない世界にいらっしゃるとかいうところへお見舞いを申し上げに
この人のために取り立てて何かなさることも「人にとがめられよう。主上も、やましくお思いになるであろう」と気後れがするので、阿弥陀仏を心に掛けて念じられる。同じ
・・亡き人を慕ふ心に任せても
・・・影見ぬ
(亡き人を慕う心に任せて行っても、その影も見えぬ三途の川に惑うことであろう)
と思われるのがつらかったとか。(朝顔終)