釜飯屋の更級日記

(四)太井川

 翌朝早くそこを立って、下総の国と武蔵の国との境になっている太井川の川上の瀬、「まつさと」の渡し場に泊まって、夜もすがら舟にてかつかつ物など渡す。
 私の乳母である人は、夫なども亡くしていて国境で子を産んだので、離れて別に上る。
 いたく恋しいのでそちらへ行きたく思っていると、私の兄に当たる人が連れていってくれた。
 皆は、仮屋といっても風が透かないように幕を引き渡しなどしているのに、こちらは、男なども添うていないので、本当に手をかけられず粗末で、とまというものを一重しかふいてないので月が残りなく差し入っているところに、くれないのきぬを上に着て、苦しんで伏している乳母には、月影も格別に透いて、いとも白く清げで、私のことを珍しく思ってなでては泣くのを、いたく悲しく見捨てがたく思うけれども、急いで連れてゆかれるその心地は、本当に物足りなく耐えきれない。
 乳母が幻に見えるようで悲しいので、月の興も感じず、気が塞いで伏していた。
 翌朝早く、車を担いできて舟に置いて渡し、向こう岸でそれを起こして、送りにきた人々もここから皆帰った。
 上る者もそこにとどまって行き別れる折、とどまるも行くも皆泣きなどする。
 幼心にも物悲しく見えた。
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