釜飯屋の更級日記

(六)隅田川

 野山にあしおぎとの中を分けるよりほかのこともない。武蔵と相模との中にあって「あすだ」河というのは、在五中将が
 
  いざ言問はむ
 
(さあ問いかけよう)
 
と詠んだ渡りである。
 中将の集には隅田川とある。
 そこを舟にて渡ってしまえば相模の国になる。
 「にしとみ」というところの山は、絵の良く描けた屏風びょうぶが立ち並んでいるようである。
 もう一方は海だ。
 浜の様も、寄せては返す波の様子もはなはだ楽しい。
 唐土もろこしヶ原というところも、これは、砂のはなはだ白いところを二、三日行く。
「夏は大和なでしこが、濃く薄く、錦を引いているように咲くのです。それは、秋の末なので見えませぬ」
と人は言うのに、なおところどころは、落ち散りつつ、物悲しげに咲き渡っている。
 唐土ヶ原に大和なでしこが咲いたとは、などと人々がおかしがる。
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