釜飯屋の更級日記

(八)富士山

 富士の山はこの国にある。
 私の育った国では西表に見えた山だ。
 この山は本当に世に見えぬ有り様である。
 格別な山の姿で、紺青を塗ってあるようなところへ雪が消える折もなく積もっているので、色の濃いきぬに白いあこめを着ているように見え、山の頂の少し平らかになったところより煙は立ち昇る。
 夕暮れは、火の燃え立っているのも見える。
 清見ヶ関は、片一方は海であるところに関屋があまたあって、海まで柵をしてある。
 富士と一緒に煙り合っているのだろうか。それで、清見ヶ関の波も高くなるのだろう。
 楽しさは一通りでない。
 田子の浦は波が高くて、舟をこいで回る。
 大井川という渡りがある。
 水が尋常でない。すり粉などを濃いまま流してあるように、白い水が速く流れている。
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