釜飯屋の更級日記

(十一)三河

 そこより「ゐのはな」という、言いようもなく難儀な坂を上ってしまえば、三河の国の高師たかしの浜というところ。
 八橋やつはしは、名ばかりで橋は跡形もなく、何の見どころもない。
 二村山の中に泊まった夜、大きな柿の木の下にいおりを作ったので、夜もすがらいおりの上に柿が落ち掛かったのを、人々が拾いなどする。
 宮路の山というところを越える折は、神無月の下旬であるのに紅葉も散らないで盛りである。
 
  嵐こそ吹きこざりけれ
   宮路山 まだもみぢ葉の 散らで残れる
 
(嵐が吹いてこなかったのだ。宮路山には、まだもみじ葉が、散らないで残っている)
 
 三河と尾張との間にある志香須賀しかすがの渡りは、誠に、しかすがさすがに渡るのを思い煩うてしまいそうで面白い。
 尾張の国、鳴海なるみの浦を通っていると、夕潮がただ満ちに満ちてきて、
「こよい宿ろうにも、中ほどで潮が満ちてしまえば、ここを過ぎられそうもない」
と全員うろたえて、走って過ぎた。
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