釜飯屋の更級日記

(十二)美濃

 そこより美濃の国となる境にて、墨俣すのまたという渡りを渡って、野上というところに着いた。
 そこに遊び女どもが現れ出て、夜もすがら歌を歌うにも、足柄にいた女たちが思い出されて感慨深く、恋しいことは一通りでない。
 雪が降ってひどく荒れるので事の興もないまま、不破ふわの関川、美濃山などを越えて、近江の国の、息長おきながという人の家に宿ってそこに四、五日いた。
 「みつさか」の山の麓では、夜昼、時雨、あられが降り乱れて、日の光もさやかでなく、はなはだいとわしい。
 そこを立って、犬上、神崎、野洲やす栗本くるもとなどというところどころは、これということもなく過ぎた。
 湖の面ははるばるとして、多景たけ島、竹生ちくぶ島などというところの見えているのがいたく面白い。
 勢多の橋は皆崩れていて、なかなか渡れない。
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