釜飯屋の更級日記

(十)遠江

 「ぬまじり」というところも滞りなく過ぎてから、ひどく発病して遠江にかかった。
 小夜さよの中山などを越えたとかいう折のことも覚えていない。
 はなはだ苦しいので、天竜という川のほとりに仮屋をこしらえたので、そこにいて数日が過ぎる内に、次第に癒える。
 冬も深まっているので、川風がしきりに荒々しく吹き上げて耐え難く思われた。
 ここを渡って、浜名の橋に着いた。
 浜名の橋は、下った時には黒木を渡してあったが、この度は跡すら見えないので、舟にて渡る。
 入り江に渡してあった橋なのである。
 外海はひどく波が高くて、入り江の、ほかに何もなくただ松原が茂っているむなしいと洲の真ん中より、波が寄せては返すのも、種々の色の玉のように見え、誠に松の末より波は越えて、はなはだ面白い。
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