釜飯屋の更級日記

(二十四)月夜

 その月の十三日の夜、月が本当にくまなく明るいので、皆も寝ている夜中のほどに、縁に出て坐っていて、姉が、空をつくづくと眺めて
「今私が行方もなく飛んでいって、見えなくなってしまったらどう思うでしょう」
と問うので、私が少し恐ろしいと思っている様子を見て、別のことに言いなして笑いなどして、聞けばすぐ近所に、先払いをする車が止まって、
おぎの葉よ、荻の葉よ」
と呼ばせるけれども、答えぬようだ。
 呼ぶのに苦労して、澄んだ笛の音を至って美しく鳴らして通り過ぎてしまうようである。
 
  笛の音のただ秋風と聞こゆるに
   など 荻の葉のそよと答へぬ
 
(この笛の音は秋風とのみ聞こえますのに、荻の葉はなぜ「そうよ」とも答えてくださらないのでしょう)
 
と言ったところ、誠にそうだということか
 
  荻の葉の答ふるまでも吹き寄らで
   ただに過ぎぬる 笛の音ぞ憂き
 
(その笛の音を、荻の葉が答えるまで鳴らしてもくださらず、寄りもせずただ過ぎてしまうのがつろうございます)
 
 かように、明けるまで空を眺めて夜を明かして、明けて二人とも寝た。
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