釜飯屋の更級日記

(二十六)かばね

 その年の皐月の初めに、姉は子を産んで亡くなった。
 かようなことは、家族のことでなくてすら、幼い頃よりはなはだ悲しいものに思い続けているのに、なおさら何とも言いようがなく、とても悲しい。
 母なども皆、姉のかばねの方にいるので、形見としてこの世にとどまった二人の子供を私が左右に寝かせていると、荒れた板屋の隙より月が漏ってきて、赤子の顔に当たっているのがいたく忌むべく思われるので、袖で覆うて、今一人をもかき寄せて慈しむのが悲しい。
 その折も過ぎて、親族である人のもとより
「故人が必ず求めてよこせと言うので求めましたのに、その折は見つけられずにしまいましたけれど、今になって人からよこしてきましたのが悲しいことです」
と言って『かばね尋ぬる宮』という物語をよこした。
 そのことが誠に悲しい。
 返事には
 
  うづもれぬかばねを何に尋ねけむ
   こけの下には身こそなりけれ
 
(まだ埋められていない、恋人のかばねを尋ねたのはなぜでしょうか。よみ路へ自ら立ってしまって)
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