釜飯屋の更級日記

(三十四)木の葉

 神無月の下旬にまたちょっと来てみると、木暗く茂っていた木の葉も残りなく散り乱れて、一面が物悲しげに見え、心地よげにさらさらと流れていた水も、木の葉にうずもれて跡ばかりが見える。
 
  水さへぞみ絶えにける
   木の葉散る嵐の山の心細さに
 
(澄んだ水さえ住むのをやめてしまったのだ。木の葉を散らす嵐の山の心細さに)
 
 例のそこにいる尼に
「春まで命があれば必ず伺います。花盛りとなりましたら、まず告げてください」
などと言って帰ったけれども、年が改まって、弥生の十余日になるまでも音沙汰がないので
 
  契りおきし 花の盛りを告げぬかな
   春やまだ来ぬ 花や匂はぬ
 
(契っておいたように花の盛りを告げてはくださらないのですね。春はまだ来ないですか。花は匂いませんか)
モバイルバージョンを終了