釜飯屋の更級日記

(三十五)他家にて

 一時他家にあって満月の頃、竹に近くて、風の音に目を覚まされるのみで、打ち解けて寝ることもできぬ頃に
 
  竹の葉のそよぐごとに寝覚めして
   何ともなきに物ぞ悲しき
 
(節のある竹の葉がそよぐ夜ごとに寝覚めをして、何ということもないのに物悲しいことだ)
 
 秋頃、そこを立ってほかへ移り、そこのあるじに
 
  いづことも露の哀れは分かれじを
   浅茅あさぢが原の秋ぞ恋しき
 
(どこだといって露の美しさが分かれはしますまいけれど、まばらにちがやの生えたあの原の秋が恋しいのです)
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