釜飯屋の更級日記

(四十)太秦

 葉月ばかりのこと、太秦に籠もるのに一条より詣でる道に、男車が二つばかり止まっている。もろともにどこかへ行くはずの人を待っているのであろう。
 そこを通ってゆくと、随身のような者をよこして
 
  花見にゆくと君を見るかな
 
(花を見にゆくのだと、あなたは見えますね)
 
と言わせたので、こんな折のことは答えないのも具合が悪いなどということで
 
  千ぐさなる心習ひに
   秋の野の
 
(くさぐさに心を動かす癖で、秋の野の)
 
とばかり言わせて行き過ぎてしまう。
 七日太秦にいる間も、ただ東国のことのみが思いやられ、由もない言葉を辛うじて離れて、つつがなく父と対面させたまえと申し上げたのは、仏も哀れとお聞き入れになったことであろう。
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