釜飯屋の更級日記

(四十二)子しのびの森

 東国より人が来た。
 
神拝という業をして国のあちこちを回ったところ、水の美しく流れている野がはるばるとあり、そこに木陰があるのを……美しいところだ。見せることもできないが……とまずあなたを思い出して、ここは何というところかと問うと、子しのびの森と申しますと答えたのが、身によそえられてはなはだ悲しかったので、馬より降りてそこを幾時も眺めていたのです。
 とどめおきて我がごと物や思ひけむ
  見るに悲しき子しのびの森
(我がごとくお前も、子を置いてきて物を思ったのであろう。見るにも悲しい子しのびの森よ)
と思われました。

 
とあるのを見る心地は改めて言うにも及ばない。
 返事には
 
 子しのびを聞くにつけても
  とどめおきし父の山のつらきあづま路
(子しのびと聞くにつけても、私をここにとどめておいたお父上は、東国秩父の山道のようにむごいお方です)

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