釜飯屋の更級日記

(四十八)西山

 東は、野がはるばるとあって、山際は、比叡ひえの山よりして、稲荷いなりなどという山まで明らかに見え渡り、南は、ならびの岡の松風が、至って耳に近く心細く聞こえて、こちら側の頂まで、田に鳴子なるこというものを引き鳴らす音など、本当に田舎の風情で、月の明るい夜など本当に楽しいので、眺め明かして暮らすけれども、知った人は、里から遠くなっては音沙汰もない。
 何かのついでに、いかがお過ごしでしょうと伝えてきた人に驚いて
 
  思ひいでて人こそ問はね
   山里のまがきの荻に秋風は吹く
 
(人は思い出して訪ねてきてもくださいませんけれど、秋風は、この山里の、まがきの荻に吹いてきます)
 
と言わせに人をやる。
モバイルバージョンを終了