釜飯屋の更級日記

(五十)宮仕え

 まず一夜参上する。
 濃淡八枚ばかりの菊襲きくがさねの上に濃い掻練かいねりを着た。
 あれほど物語にのみ心を入れて、それを見るよりほか、行き通う親類などすら殊になく、昔めいた両親の陰にいるばかりで、月や花を見るよりほかのことはない習いのままに出ていったその折の心地は夢のようで、うつつとも思われぬまま、暁には退出してしまう。
 田舎風の私の考えには、安定した実家住みよりもかえって、面白いことを見聞きして、心も慰むだろうかと思う折々もあったのに、至って間が悪く、悲しいこともあるようだと思うけれども、どうしようもない。
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