釜飯屋の更級日記

(五十三)前世

 ひじりなどにすら、前世のことを夢に見るのは至って難いことだそうなのに、本当にこんな、しっかりしない、はかないような心地に夢に見たことは……
 
 清水の礼堂らいどうに坐っていると、別当とおぼしい人が出てきて
「あなたは前世にこの寺の僧だったのです。また仏師でもあり、仏を極めて多く造り奉った功徳によって、在りしにも勝る素性の人と生まれましたのです。このお堂の東においでになります丈六の仏は、あなたが造ったものなのですよ。箔を押しさして亡くなったのです」
「まあひどい。それではあれに箔を押し奉りましょう」
と言えば、
「あなたが亡くなったので、別の人が箔を押し奉り、別の人が供養もしてしまいました……」
 
と見て後に、もし清水寺に懇ろにお参りしていたなら、前世にそこで仏を念じ申し上げていた力に、おのずから御利益もあったであろうに、至ってふがいないことに、参詣もせずにしまったのである。
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