釜飯屋の更級日記

(五十五)結婚

 こうして宮仕えに出たとなれば、それにもそのまま慣れ、俗事に紛れてはしまうにしても、ねじけた人のように思われもしない間は、おのずから世の人と同じようにも私を思い、取り扱ってくださることもあったろうに、両親も、本当に心得がなく、程なく私を家内に据えて閉じ込めてしまう。
 それでたちまち威光をきらめかす境遇になどなろうはずもなく、至って由ない、気もそぞろな私であったとはいえ、殊の外、案にたごうてしまった境遇なのである。
 
  幾千度いくちたび水の田芹たぜりを摘みしかば
   思ひしことの露もかなはぬ
 
(水田の芹を何千回と摘んだところで、思ったことはつゆもかなうことがない)
 
と独り言がこぼれるばかりであった。
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