釜飯屋の更級日記

(六十七)また初瀬へ

 また初瀬に詣でてみれば、初めてのときよりは格別に心強い。
 ところどころで饗応きょうおうなどされてとっとと行くこともできない。
 山城の国は祝園ほうその小楢こならの森など、紅葉が至って美しい折であった。
 初瀬川を渡るにも
 
  初瀬川立ち返りつつ訪ぬれば
   杉のしるしもこの度や見む
 
(初瀬川に返すこの波のように繰り返し訪ねたのだから、この度はあの杉のしるしをも見るでしょうか)
 
と思うのも至って頼もしい。
 三日そこにいて退出したところ、例の奈良坂の都側にある小家などには、この度は至ってともがらも多いので宿れそうになく、野中に仮初めにいおりを作って私らを据えたので、従者はただ野にいて夜を明かす。
 草の上にむかばきなどを敷いて、上にむしろを敷いて、至って粗末に夜を明かす。
 頭もじっとりするほど露が置いている。
 暁方の月は本当に澄み渡り、喩えようもなく美しい。
 
  行方なき旅の空にも後れぬは
   都にて見し有明の月
 
(当てどない旅の空にあっても後れてこないものは、都で見ていた有明の月だ)
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