釜飯屋の更級日記

(七十三)西へ行く月

 やはり心を同じゅうして連絡を交わし、世の中のつらいことも情けないことも、面白いことも互いに語らった人が筑前に下って後、月がはなはだ明るいので……こんな夜に、宮家に参上してあの人に会っては、つゆまどろむことなく眺めて明かしたものを……と恋しく思いつつ寝入ってしまった……
 
 宮家に参上してその人に会った。以前と変わらず、現実のようだった……
 
と見て目を覚ましたところ夢であった。
 月も山の端近くなっていた。
 
  覚めざらましを
 
(覚めなければよかったのに)
 
とますます眺められて
 
  夢覚めて 寝覚めの床の浮くばかり
   恋ひきと告げよ 西へ行く月
 
(夢が覚めて、寝覚めの床も浮くばかりに、涙を流してあなたを恋うたと告げてください。西へ行く月よ)
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