釜飯屋の更級日記

(七十七)夫帰京

 今や、何とかしてこの若い子供らを一人前にしようと思うよりほかのこともない。翌年の卯月に夫は帰京して夏秋も過ぎた。
 夫は長月二十五日より患い出して、神無月五日に、夢のように最期を見届けて思う心地は、世の中にまたと類いのあることとも思われない。
 初瀬に鏡を奉った時に、伏しまろび、泣いている影が見えたのは、このことだったのだ。
 うれしそうだった方の影のようなことは、来し方にもなかった。
 今から行く末は、あるはずもない。
 二十三日、はかなく夫を火葬にした夜、去年の秋は大いに飾り立て、丁重に扱われて付き添うて下っていったのを見やったものだのに、至って黒いきぬの上に、あの忌ま忌ましげなものを着て、車の供に泣く泣く歩み出してゆく息子を家の内から見て、あの日を思い出している心地は、およそ喩える手立てもなく、そのまま夢路に迷うても思うので、空にいる夫にも見られてしまったことだろう。
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