釜飯屋の更級日記

(七十九)後の頼み

 さすがに命は、このつらさにも絶えることなく長らえているようだけれども、後の世のことも思うままにはなるまいと、それが心に懸かる中に、頼みにすることが一つあるのである。
 天喜三年十月十三日の夜の夢に……
 
 居処の軒端の庭に阿弥陀仏が立っておいでになる。
 定かにはお見えにならず、霧が一重隔たったように透いてお見えになるのを、強いて霧の絶え間に拝見すれば、蓮華の座が、土から上がって高さ三、四尺にあり、仏の御丈は六尺ばかりで、金色に光り輝いておいでになり、片方の手をば広げたように、もう片方の手には印を作っておいでになるのを、ほかの人の目には見つけ奉らず、私一人拝見しているのに、さすがにひどく恐ろしいのですだれの近くに寄って拝見することもできずにいたところ、仏が
「それでは、この度は帰って後に迎えに来ましょう」
とおっしゃる声が私一人の耳に聞こえて、人は聞きつけもしない……
 
と見たところで目を覚ませば十四日になっている。
 この夢ばかりを後の頼みとしていたのである。
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