釜飯屋の更級日記

(三)くろとの浜

 十七日の朝早く立つ。
 昔、下総の国に「まの」の長という人が住んでいたそうな。
 布を千匹も一万匹も織らせ、さらさせた人の家の跡ということである。深い川を舟にて渡る。
 昔の門の柱がまだ残っているのだという話で、大きな柱が川の中に四つ立っている。
 人々が歌を詠むのを聞いて、私も心の内に

  朽ちもせぬこの川柱残らずは
   昔の跡をいかで知らまし

(もしこの川の柱が朽ちもせず残っていなかったら、昔の跡をどうして知ったことだろう)

 その夜は「くろと」の浜というところに泊まった。
 片一方は広やかで、砂ははるばると白く、松原も茂って、月ははなはだ明るいところで、風の音もはなはだ寂しい。
 人々が面白がって歌を詠みなどするので、私も

  まどろまじ こよひならではいつか見む
   くろとの浜の 秋の夜の月

(まどろみもすまい。こよいでなくてはいつ見られよう。くろとの浜の、秋の夜の月を)
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