釜飯屋の更級日記

(二十)夢

 物語のことを朝から晩まで思い続け、夜も目の覚めている限りはそのことをのみ心にかけていた頃に夢に見えたこと……
 
「この頃、皇太后の宮の娘御の一品いっぽんの宮の御ために、六角堂にやり水を造っておるのでございます」
と言う人がいたのを、
「それはまたどうして」
と問えば、
天照大御神あまてらすおおみかみを念じ申し上げなさい」
と言う……
 
と見て、それを人に語るでもなく、何とも思わずにしまったことが、本当にふがいない。
 春ごとに、この一品の宮の御殿を眺めやっては
 
  咲くと待ち 散りぬと嘆く
   春はただ我が宿顔に花を見るかな
 
(咲くと言っては待ち、散ったと言っては嘆いている。春にはただ、我が家のやうな顔で花を見ているのだ)
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