釜飯屋の更級日記

(五十二)父母

 十日ばかりそこにいて退出すると、父母は、炉に火をおこすなどして待っていた。
 私が車より降りるのを見るままに
「あなたがおいでになればこそ、人が見えもし、伺候する者もあったけれども、この数日は、人声もせず、前に人影も見えず、至って心細く思い煩うていたのです。あちらにばかりおいでになって、私のことはどうなさろうというおつもりですか」
と泣くのを見るのもいたく悲しい。
 翌朝も、
「今日はこうしてあなたがおいでになるので、内にも外にも人が多くて、こよなくにぎやかになりましたね」
と言って向かい合っているのも本当に悲しく、私のどこにそんな光があるのであろうと涙ぐましく聞こえる。
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