釜飯屋の更級日記

少女(二)

葵上の息子の若君、あざなを付けられる。
入学。
寮試。
 
前斎宮の女御、立后。
 
源氏、太政大臣に任ぜられる。
 
葵上の息子の若君、内大臣(かつての頭中将)の娘の姫君とひいな遊び。 
内大臣、姫君のことで大宮を恨む。
石山師香『源氏物語八景絵巻』 メトロポリタン美術館コレクションより
 大宮が文で
 
内大臣のことを恨んでいらっしゃるかもしれませんね。あなたはそれでも、私の志のほどは御存じでしょう。こちらへいらしてお顔を見せていってくださいませ。
 
と連絡なさるので、あの雲居の雁の姫君は本当にかわいらしく引き繕っておいでになった。十四でいらしたのである。幼くお見えになるけれど、その至って子供らしいのが、しとやかで愛らしい様でもおありになる。
「傍らから離すことなく、明け暮れの遊び相手と思ってまいりましたのに、本当に寂しくなります。年のほども残り少のうて、あなたの御境遇も最後までは見られまいと寿命のことならそう思うてまいりましたが、今更に私を見捨ててどちらへお移りになるのであろうと思えば、本当に悲しゅうございます」
と言ってお泣きになる。姫君は、それを恥ずかしくお思いになるので、顔ももたげずにただお泣きになるばかりである。男君の乳母めのと、宰相の君が出てきて
「あなた様のことは我が君と同じように頼んでまいりましたのに、こうして口惜しくもお移りになるということで。殿は、ほかの人へという気におなりになりますとも、それになびいてはなりませんよ」
などとささやき申し上げれば、いよいよ恥ずかしくお思いになって、物もおっしゃらない。大宮は
「何とまあ、煩わしいことを申し上げるものではありません。人の宿世はそれぞれで、本当に定め難いのです」
とおっしゃる。
「いえもう、我が君を半人前と侮っておいでになるようですから。誠によもや我が君に、人に劣るところなどおありになるでしょうか。誰にでも聞き合わせてみなさい」
と、少しいら立ったままで言う。若君は、物の後ろに這入って坐ってこれを見ておいでになると、人にとがめられることも、もっとましな時ならば苦しがりもするが、今は本当に心細くてしきりに涙を押し拭っておいでになるその有り様を、乳母は、本当に心苦しいものと見て、とかく諮り申し上げるままに、大宮は夕まぐれの人の紛れに二人を対面させた。互いに恥ずかしく、胸も潰れて、物も言わず泣いておいでになる。
「大臣のお心も本当につらいことですし、とにかく考えるのをやめてしまおうと思うのですけれど、恋しさに耐え切れそうもありません。どうして、少し機会がありそうだった頃に、あなたをよそに隔てていたのだろう」
とおっしゃる様も本当に若々しく切ないので、
「私も、あなたと同じでしょう」
と姫君はおっしゃる。
「きっと恋しいと思ってくださいますか」
とおっしゃると、少しうなずかれる様も幼げである。
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