釜飯屋の更級日記

少女(三)

五節の舞のこと。
葵上の息子の君、直衣を許されて参内。
源氏、文を筑紫の五節に遣わす。
 そのまま五節の舞姫を皆めて宮仕えをさせようという御内意も主上にはあったのだけれどこの度は退出させて、近江守良清の娘は唐崎の、摂津守惟光のは難波のはらえをするというので、競うように退出してしまう。按察使大納言は、娘を格別な扱いで参上させるつもりでいる由を奏する。左衛門督は、不相応な人を奉ってとがめがあったのだけれど、主上はその人もおとどめになる。摂津守は、典侍ないしのすけの空いているところに私の娘をと申したので、そうなるように努めてやろうかと源氏の大臣も思っておいでになるのを、若君はお聞きになって、いたく口惜しく思う。
「もし年の程、位などがこう半人前でなかったらこの私がその娘を請うてみただろうに。思う心があるとさえ知られずにしまいそうなことだ」
と、取り分けてのことではないけれども、例の人のことに加えて涙ぐまれる折々もある。わらわ殿上をしていて、以前から常に自分のところへも参って奉仕しているこの娘の弟と、若君はいつもより親しくお語らいになって、五節はいつ内裏へ参るのかと問われる。今年中と聞いておりますがと弟は申し上げる。
「本当に麗しい人だったので、端たないまでに恋しいのです。そのお顔もお前は常に見ているのだろうと羨ましいけれど、また私に見せてくれないか」
とおっしゃれば、
「どうしてそんなことがございましょう。思いどおりに見ることなどとてもできません。はらからでも男だからと近くにも寄せてくれないのですから、まして公達の御覧に入れることなどどうしてございましょう」
と申し上げる。それならせめて文だけでもとおっしゃってよこした。先々もこんなことはしてはいけないと言われてきたのにと苦しがるけれど、強いて持たせるのでふびんになって持ってゆく。姉は年の割に気が利いていたのであろう、面白くそれを見た。その文というのは緑の薄様に好ましく重なった色の上にまだいとけない筆致ではあったが生い先も見えるように非常に面白く、
 
 日影にもしるかりけめや
 ・・乙女子が天の羽袖はそでに掛けし心は
 
(日陰のかずらではありませんが日の影にも明らかだったでしょうか。舞姫の天の羽衣のその袖を私が思っていたことは)
 
 姉弟二人してこれを見ている内に、父上がつと寄ってきた。恐ろしくてあきれてしまって、隠すこともできぬ。何の文だと言って取り上げると、娘は面を赤らめている。さては善からぬことをしたなと弟をなじると、逃げていくので、呼び寄せて誰からのだと問えば、大臣のところの六位の君がしかじかおっしゃって持たせられましたと言うので、怒りの名残もなくにっこりと笑って
「いかにも愛すべき、あの君の風流心よ。お前たちは、同じような年だけれど、ふがいなくたわいない者と見えるな」
などと褒めて母君にも見せる。
「もし少しでもこの子を人数ひとかずに思ってくださりそうなら、宮仕えをさせるよりは公達に奉ってしまおうかしら。大臣の御性格から見ると、その息子も見初めておしまいになった人のことはお心にお忘れにならぬことであろうと、本当に頼もしいのだがね。明石の入道のためしもあるけれど私もあれになろうかしら」
などと言うけれども、皆は宮仕えの準備を始めてしまっている。
花散里、若君の後見となる。
 
正月、源氏、白馬あおうまの節会を見る。
 
如月、朱雀院への行幸。
御前で学生がくしょうの試み。
帰るさに主上、源氏、弘徽殿の大后に対面。
 
若君、進士しんじに補せられる。
秋、除目で侍従に任ぜられる。
 
六条院、造作。
 
春、式部卿の宮、五十賀。
 
葉月、六条院を造り終わってお方々、転居。
 
長月、秋好中宮、紅葉を紫上に奉る。
土佐派『源氏物語画帖』 メトロポリタン美術館コレクションより
神無月、明石君、六条院に渡る。(少女終)
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