はなはだじれったいので、等身に薬師仏を造って、手を洗いなどして、人が見ていない間にひそかにその部屋に入っては
「京には物語が多くありますそうですが、早く私を上京させて、ある限りお見せください」
とひれ伏してぬかずき、祈り申し上げていると、十三になる年に、上京するということで、長月の三日に門出して「いまたち」というところに移った。
年来遊び慣れているところを、あらわに壊し散らして立ち騒いで、日の入り際、一面に霧が立ち、至って恐ろしい頃に、車に乗ろうとしてふと見やれば、人の見ぬ間に参ってはぬかずいたあの薬師仏が立っておいでになるのを、見捨て奉るのが悲しくて、人知れず泣かれた。
いみじく心もとなきままに、等身に
年頃遊び慣れつるところをあらはにこぼち散らして立ち騒ぎて、日の入り際のいとすごくきり渡りたるに、車に乗るとて打ち見やりたれば、
「原文」は “バージニア大学 Japanese Text Initiative”(下記リンク)のテキストに作成者が句読点を付し一部の仮名を漢字に直したものです。
http://jti.lib.virginia.edu/japanese/sarashina/SugSara.html
読点は主に以下の目的で打ちました。
・接続詞、接続助詞、副助詞、助詞を伴わない名詞の係る範囲を示す。
(父は喜び、母は悲しんだ。)
・格助詞の係る先を明確にする。
(大急ぎで、逃げた男の後を追い掛けた)
・要素の並列を示す。
(夏の海水浴、秋のハイキング)
・漢字が連続するときに文節の切れ目を示す。
(その時、戸が開いた)
※直接係る単語の間には打たない。
(その時開いた戸)
以下の語を漢字で表記しました。
・常用漢字表にあるもの
・漢語
・固有名詞、人物の呼称
・動植物名
・一音節の名詞
・その他特定の単語[狩衣(かりぎぬ)など]