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更級日記

(八)富士山

 富士の山はこの国にある。
 私の育った国では西表に見えた山だ。
 この山は本当に世に見えぬ有り様である。
 格別な山の姿で、紺青を塗ってあるようなところへ雪が消える折もなく積もっているので、色の濃いきぬに白いあこめを着ているように見え、山の頂の少し平らかになったところより煙は立ち昇る。
 夕暮れは、火の燃え立っているのも見える。
 清見ヶ関は、片一方は海であるところに関屋があまたあって、海まで柵をしてある。
 富士と一緒に煙り合っているのだろうか。それで、清見ヶ関の波も高くなるのだろう。
 楽しさは一通りでない。
 田子の浦は波が高くて、舟をこいで回る。
 大井川という渡りがある。
 水が尋常でない。すり粉などを濃いまま流してあるように、白い水が速く流れている。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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