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更級日記

(二十四)月夜

 その月の十三日の夜、月が本当にくまなく明るいので、皆も寝ている夜中のほどに、縁に出て坐っていて、姉が、空をつくづくと眺めて
「今私が行方もなく飛んでいって、見えなくなってしまったらどう思うでしょう」
と問うので、私が少し恐ろしいと思っている様子を見て、別のことに言いなして笑いなどして、聞けばすぐ近所に、先払いをする車が止まって、
おぎの葉よ、荻の葉よ」
と呼ばせるけれども、答えぬようだ。
 呼ぶのに苦労して、澄んだ笛の音を至って美しく鳴らして通り過ぎてしまうようである。
 
  笛の音のただ秋風と聞こゆるに
   など 荻の葉のそよと答へぬ
 
(この笛の音は秋風とのみ聞こえますのに、荻の葉はなぜ「そうよ」とも答えてくださらないのでしょう)
 
と言ったところ、誠にそうだということか
 
  荻の葉の答ふるまでも吹き寄らで
   ただに過ぎぬる 笛の音ぞ憂き
 
(その笛の音を、荻の葉が答えるまで鳴らしてもくださらず、寄りもせずただ過ぎてしまうのがつろうございます)
 
 かように、明けるまで空を眺めて夜を明かして、明けて二人とも寝た。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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