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更級日記

(二十六)かばね

 その年の皐月の初めに、姉は子を産んで亡くなった。
 かようなことは、家族のことでなくてすら、幼い頃よりはなはだ悲しいものに思い続けているのに、なおさら何とも言いようがなく、とても悲しい。
 母なども皆、姉のかばねの方にいるので、形見としてこの世にとどまった二人の子供を私が左右に寝かせていると、荒れた板屋の隙より月が漏ってきて、赤子の顔に当たっているのがいたく忌むべく思われるので、袖で覆うて、今一人をもかき寄せて慈しむのが悲しい。
 その折も過ぎて、親族である人のもとより
「故人が必ず求めてよこせと言うので求めましたのに、その折は見つけられずにしまいましたけれど、今になって人からよこしてきましたのが悲しいことです」
と言って『かばね尋ぬる宮』という物語をよこした。
 そのことが誠に悲しい。
 返事には
 
  うづもれぬかばねを何に尋ねけむ
   こけの下には身こそなりけれ
 
(まだ埋められていない、恋人のかばねを尋ねたのはなぜでしょうか。よみ路へ自ら立ってしまって)
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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