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更級日記

(七十二)荒磯波

 うらうらとしてのどかな宮家で、心を同じゅうする三人ばかり、物語などして退出した又の日、つれづれなままに、二人のことが恋しく思い出されるので
 
  袖ぬるる荒磯波あらいそなみと知りながら
   共にかづきをせしぞ恋しき
 
(袖をぬらすと知りながら、荒磯の波を共にくぐった、あの頃が恋しいのです)
 
と申し上げたところ、
 
  荒磯は あされど何の甲斐なくて
   うしおにぬるる 海士の袖かな
 
(あの荒磯は、貝をあさっても何のかいもなく、海士の袖はうしおにぬれただけでした)
 
今一人は
 
  海松布見る目生ふる浦にあらずは
   荒磯の波間数ふるあまもあらじを
 
(浦に海松みるが生えていなければ、波間を数えて水にくぐる海士もないように、あなたを見ることができなければ、あの荒磯に行く人もおりますまいに)
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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