源氏が内裏から退出するついでに右大臣の孫の頭弁 、源氏を見て「白虹、日を貫けり」の句を誦する。
源氏、東宮に参り、藤壺に啓する。
朧月夜、文を源氏に送る。
霜月初め、故桐壺院の一周忌に源氏、文を藤壺に奉る。
師走十余日、藤壺の御八講 。結願 の日、藤壺、落飾。王命婦、同じく出家。
睦月、源氏、藤壺に参る。
左大臣、致仕の表を奉る。
夏、雨の日、源氏と三位中将(かつての頭中将)が参会して韻塞 ぎに興じる。二日後、中将、負けわざ。
源氏、東宮に参り、藤壺に啓する。
朧月夜、文を源氏に送る。
霜月初め、故桐壺院の一周忌に源氏、文を藤壺に奉る。
師走十余日、藤壺の
睦月、源氏、藤壺に参る。
左大臣、致仕の表を奉る。
夏、雨の日、源氏と三位中将(かつての頭中将)が参会して韻
その頃、尚 の君は退出しておいでになる。わらわやみに久しくお苦しみになって、まじないなども心安くしようということだった。修法などを始めて少し癒えたので誰もが、うれしくお思いになるのに、いつものように源氏とこれを珍しい機会と言い交わされて、無理な仕方で夜な夜な対面なさる。至って盛りに豊かな様子をしておいでになる人が少し苦しんではなはだ痩せておいでになる折で、本当にかわいらしい。皇太后も一所 においでになる頃なのでその気配も至って恐ろしいのだけれど、そんなことにこそ思いが勝る癖がおありになっていたく忍んで度重なってゆくので、その様子を見ている人々もあるようだけれど、煩わしくて皇太后には、そのことを啓しない。右大臣にとってもまた思い掛けないことだけれど、雨がにわかにおどろおどろしく降って雷がいたく鳴り騒ぐ暁に右大臣の公達、皇太后の司 などが立ち騒いであちらこちらの人目もうるさく、女房たちも、ひどくおじて近くに集うてまいるので、どうしようもなく、出る手立てもおありにならぬままにすっかり夜が明けてしまう。帳台の巡りにも人々が密に並み居るものだから、本当に胸が潰れそうに思われる。訳知りの人二人ばかりも、心を惑わしている。雷鳴や雨の少しやんだ折に、右大臣がいらしてまずは皇太后の居室においでになったことが村雨に紛れて二人ともお分かりにならずにしまったところへ、軽率にも大臣がつとお這入りになって御簾を引き上げられるや否や
「どうだね。夜中は本当に不穏であったが、あなたのことを思いやってはいながら参ることができなくてね。中将や宮の亮 などは伺候していたかね」
などとおっしゃる素振りが口早で軽々しいのをこんな忍び会いの間にも源氏大将は左大臣の御様子とふと思い比べられて、はなはだ違うものだなと頬笑まれるのである。誠に、すっかり這入ってからおっしゃればよいのに。尚の君は、本当に悩ましく思われて、やおらいざっておいでになるけれど面 がいたく赤らんでいるので、なおもお苦しいのかと御覧になって
「どうして御気分がお悪いのでしょう。物の怪などが難しいのなら、修法を延べさせておくべきでしたね」
とおっしゃるところへ、薄二藍 の帯が服にまつわって引き出されてきたのを見付けられて、怪しいとお思いになるのに、また、たとう紙に、手習いなどしたのが、几帳のもとに落ちている。これはどうしたことかと心から驚かれて
「あれは誰のだ。様子が違うではないか。そいつをよこしなさい。手に取って、誰のものか見てみよう」
とおっしゃるので、見返って朧月夜も見付けられたのである。紛らわす手立てもないが、どうしてお答えになれよう、無我夢中でいらっしゃるけれど、我が子ながらも、恥ずかしがっておいでになるのだろうとそれほどの人なら考えておはばかりになるはずのものである。しかし、いたく性急で、ゆったりしたところがおありにならない大臣で、思い巡らすこともないままそのたとう紙をお取りになるや否や几帳の奥を御覧になったところ、いたくなよやかで、はばかりもせず物に寄り掛かって伏している男がある。今になって、やおら顔を隠してとかく紛らわすのである。思いの外のことに驚いてばかばかしくなるけれども、ぶしつけにどうしてすっぱ抜くことがおできになろう。目もくらむ心地がするので、そのたとう紙を取って寝殿にお移りになった。
「どうだね。夜中は本当に不穏であったが、あなたのことを思いやってはいながら参ることができなくてね。中将や宮の
などとおっしゃる素振りが口早で軽々しいのをこんな忍び会いの間にも源氏大将は左大臣の御様子とふと思い比べられて、はなはだ違うものだなと頬笑まれるのである。誠に、すっかり這入ってからおっしゃればよいのに。尚の君は、本当に悩ましく思われて、やおらいざっておいでになるけれど
「どうして御気分がお悪いのでしょう。物の怪などが難しいのなら、修法を延べさせておくべきでしたね」
とおっしゃるところへ、
「あれは誰のだ。様子が違うではないか。そいつをよこしなさい。手に取って、誰のものか見てみよう」
とおっしゃるので、見返って朧月夜も見付けられたのである。紛らわす手立てもないが、どうしてお答えになれよう、無我夢中でいらっしゃるけれど、我が子ながらも、恥ずかしがっておいでになるのだろうとそれほどの人なら考えておはばかりになるはずのものである。しかし、いたく性急で、ゆったりしたところがおありにならない大臣で、思い巡らすこともないままそのたとう紙をお取りになるや否や几帳の奥を御覧になったところ、いたくなよやかで、はばかりもせず物に寄り掛かって伏している男がある。今になって、やおら顔を隠してとかく紛らわすのである。思いの外のことに驚いてばかばかしくなるけれども、ぶしつけにどうしてすっぱ抜くことがおできになろう。目もくらむ心地がするので、そのたとう紙を取って寝殿にお移りになった。
右大臣、朧月夜と源氏のことを皇太后に訴える。(賢木終)