そこより美濃の国となる境にて、墨俣という渡りを渡って、野上というところに着いた。
そこに遊び女どもが現れ出て、夜もすがら歌を歌うにも、足柄にいた女たちが思い出されて感慨深く、恋しいことは一通りでない。
雪が降ってひどく荒れるので事の興もないまま、不破の関川、美濃山などを越えて、近江の国の、息長という人の家に宿ってそこに四、五日いた。
「みつさか」の山の麓では、夜昼、時雨、あられが降り乱れて、日の光もさやかでなく、はなはだいとわしい。
そこを立って、犬上、神崎、野洲、栗本などというところどころは、これということもなく過ぎた。
湖の面ははるばるとして、多景島、竹生島などというところの見えているのがいたく面白い。
勢多の橋は皆崩れていて、なかなか渡れない。