葉月ばかりのこと、太秦に籠もるのに一条より詣でる道に、男車が二つばかり止まっている。もろともにどこかへ行くはずの人を待っているのであろう。
そこを通ってゆくと、随身のような者をよこして
花見にゆくと君を見るかな
(花を見にゆくのだと、あなたは見えますね)
と言わせたので、こんな折のことは答えないのも具合が悪いなどということで
千ぐさなる心習ひに
秋の野の
(くさぐさに心を動かす癖で、秋の野の)
とばかり言わせて行き過ぎてしまう。
七日太秦にいる間も、ただ東国のことのみが思いやられ、由もない言葉を辛うじて離れて、つつがなく父と対面させたまえと申し上げたのは、仏も哀れとお聞き入れになったことであろう。
そこを通ってゆくと、随身のような者をよこして
花見にゆくと君を見るかな
(花を見にゆくのだと、あなたは見えますね)
と言わせたので、こんな折のことは答えないのも具合が悪いなどということで
千ぐさなる心習ひに
秋の野の
(くさぐさに心を動かす癖で、秋の野の)
とばかり言わせて行き過ぎてしまう。
七日太秦にいる間も、ただ東国のことのみが思いやられ、由もない言葉を辛うじて離れて、つつがなく父と対面させたまえと申し上げたのは、仏も哀れとお聞き入れになったことであろう。