母が一尺の鏡を鋳させ、連れて参らぬ代わりにということで、僧をいで立たせ初瀬に詣でさせるようである。
「三日いて、娘の運命を夢にお見せください」
などと言って詣でさせたようなのである。
その間、私にも精進させる。
その僧が帰ってきて……
……夢すら見ないで退出したら不本意なこと。帰ってきても何と申し上げられよう……と大いにぬかずいて修して寝たところ、帳台の方より、はなはだ気高く清げな、折り目正しい装いの女人が、私の奉りましたその鏡を引っ 提げて
「この鏡には文が添えてありませんでしたか」
と問われたので、かしこまって
「文はございませんでした。ただこの鏡を奉れということでございました」
と答え奉ったところ、
「妖しいことですね。文が添えてありますはずのものを」
と言って
「この鏡の、こちらの端に映った影を御覧なさい。これを見れば、ああ、悲しいぞよ」
と言っ てさめざめと泣いておいでになるので、見れば、ふしまろび、泣いて嘆く影が映っておるのでございます。
「この影を見れば悲しいですね。こちらを御覧なさい」
と言っ て、反対の端に映った影を見せられたが、御簾は青々 として、几帳を端に押し出した下より種々 の色のきぬがこぼれ出て、梅や桜の咲いた枝から枝へと鶯 が飛び移っては鳴いているのを見せて
「これを見るのはうれしいですね」
と言われたと見えたのです……
と、語ったそうである。
それをどう見たらいいかと耳を傾けることすらしない。
「三日いて、娘の運命を夢にお見せください」
などと言って詣でさせたようなのである。
その間、私にも精進させる。
その僧が帰ってきて……
……夢すら見ないで退出したら不本意なこと。帰ってきても何と申し上げられよう……と大いにぬかずいて修して寝たところ、帳台の方より、はなはだ気高く清げな、折り目正しい装いの女人が、私の奉りましたその鏡を
「この鏡には文が添えてありませんでしたか」
と問われたので、かしこまって
「文はございませんでした。ただこの鏡を奉れということでございました」
と答え奉ったところ、
「妖しいことですね。文が添えてありますはずのものを」
と言って
「この鏡の、こちらの端に映った影を御覧なさい。これを見れば、ああ、悲しいぞよ」
と
「この影を見れば悲しいですね。こちらを御覧なさい」
と
「これを見るのはうれしいですね」
と言われたと見えたのです……
と、語ったそうである。
それをどう見たらいいかと耳を傾けることすらしない。