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更級日記

(七十七)夫帰京

 今や、何とかしてこの若い子供らを一人前にしようと思うよりほかのこともない。翌年の卯月に夫は帰京して夏秋も過ぎた。
 夫は長月二十五日より患い出して、神無月五日に、夢のように最期を見届けて思う心地は、世の中にまたと類いのあることとも思われない。
 初瀬に鏡を奉った時に、伏しまろび、泣いている影が見えたのは、このことだったのだ。
 うれしそうだった方の影のようなことは、来し方にもなかった。
 今から行く末は、あるはずもない。
 二十三日、はかなく夫を火葬にした夜、去年の秋は大いに飾り立て、丁重に扱われて付き添うて下っていったのを見やったものだのに、至って黒いきぬの上に、あの忌ま忌ましげなものを着て、車の供に泣く泣く歩み出してゆく息子を家の内から見て、あの日を思い出している心地は、およそ喩える手立てもなく、そのまま夢路に迷うても思うので、空にいる夫にも見られてしまったことだろう。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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