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源氏物語

葵(一)

源氏、二十二歳。
 
桐壺帝は位を朱雀帝に譲っている。
 
源氏は大将になっており、東宮の後見となる。
『御所車図』 メトロポリタン美術館コレクションより
 そうそう、あの六条の御息所と、先の東宮との間の姫君が、斎宮にお定まりになったので、「大将の思いやりにも本当に心強くはなれないし、幼い姫君の御境遇が心に掛かるのにかこつけて、伊勢へ下ってしまおうかしら」とかねてより思っておいでになった。桐壺院も、こんなことがあると聞こし召して、
「亡き東宮が、本当に並々ならずお思いになり、目を掛けておいでになったものを、粗末にして、平凡な人のように取り扱っていると聞くと哀れでね。私にしても、あの斎宮のことを我が子と同列に思っているのだから、どちらのためにも、おろそかにせぬがよかろう。こう気の向くに任せて遊んでいるのでは、本当に世の批判を負わねばならぬことになりますよ」
などと気色もよろしくなく、御自分のお考えにも、誠にそうだと思い知られるので、かしこまっておいでになる。
「人に恥を見せることなく、どなたのことをも平らかに取り扱って、女の恨みを負わないようになさい」
と仰せられるにも「私のあのけしからぬ、分に過ぎた心のことを聞き付けておしまいになったら」と恐ろしいので、かしこまって退出しておしまいになる。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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