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更級日記

(五十一)師走の宮仕え

 師走になってまた参上する。
 女官として、この度は数日伺候する。
 御方には、昼は時々、そして夜にも参上する。知らない人の中に伏してはしばしも眠れない。
 恥ずかしく、辺りがはばかられるので、忍び泣きをしつつ、未明には下がって、そのまま日暮らし、あの、老いて衰え、私をちょうど頼もしい陰のように思って向かい合っていた父のことが、恋しく心もとなくのみ思われる。
 母を亡くしためいたちも、生まれた時より起き伏しを共にして、夜は左右にいたこともいとしく思い出されなどして、上の空で、物を思うて暮らされた。
 立ち聞きやかいま見をする人の気配がして本当にひどく恥ずかしい。
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作成者: com

内容
・日本の(主に平安)古典の現代語訳

対象読者
・古文の授業で習った作品の全体像を知りたい中高生
・日本の古典にもう一度触れてみたくなった大人

翻訳の方針
・主語をなるべく補う。呼称もなるべく統一。
・一つの動詞に尊敬語と謙譲語が両方つく場合、尊敬語のみを訳出。
 (例)「見たてまつりたまふ」→「御覧になる(×拝見なさる)」
・今でも使われている単語は無理に言い換えない。
・説明的な文章を排し、簡潔に。

※これらは受験古文の方針とは異なるかもしれませんが、現代語としての完成度を優先しました。

作品
・完了 :更級日記(令和二年四月~七月)
・進行中:源氏物語(抄)(令和二年七月~)
・今後手がけたい:とはずがたり、紫式部日記、枕草子、蜻蛉日記、和泉式部日記、夜の寝覚め、堤中納言物語、伊勢物語、竹取物語、大鏡、増鏡、土佐日記

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