源氏は中将に、蔵人少将は頭中将になっ ている。源氏、十七歳。
桐壺と帚木 の間で源氏は朝顔の君、六条御息所 、藤壺と関係しているはずだが直接の描写はない。『輝く日の宮』という失われた帖があるとも言われるが、もちろん故意の省筆、又は削除の可能性もある。なお、巻の後半で源氏と朝顔の君についてのうわさ話が聞こえてくる場面に対して、この物語の最初の英訳者アー サー・ ウェイリーが興味深い註を付している。
桐壺と
We learn later that Genji courted this lady in vain from his seventeenth year onward. Though she has never been mentioned before, Murasaki speaks of her as though the reader already knew all about her. This device is also employed by Marcel Proust.
The Tale of Genji: The Arther Waley Translation
(源氏は十七歳の時以来この女性に言い寄ってそのかいがなかったのだということが、後になって分かる。これまで一度も言及がないにもかかわらず、読者が総てを
帚木、
光る源氏とただでさえ名のみ事々 しく、その光を打ち消す傷も多くおありになるそうなのに、「こんな色事を末の世に聞き伝えて、軽々 しい名を流しもしようか」とお忍びになった隠し事をさえ語り伝えたという、世の人の口さがなさよ。しかし、本当に世をはばかっておいでになり、まめやかに振る舞っていらした間には、なまめかしく面白いことはなくて、交野 の少将には笑われておいでになったことであろう。
まだ中将などでいらした時は、内裏にのみよく伺候をなさって舅 の左大臣のところへは途切れ途切れにおいでになる。
忍 の乱れ
(忍ずりのあやのように乱れた、忍ぶ恋心)
でもあるのだろうかと疑い申し上げることもあったけれど、上っ調子の、月並みで、不しつけな色事などは、さほど好ましく思われない御本性で、それでいてまれには打って変わって、気をもむようなことを強いてお心にお留めになる癖があいにくとおありになり、あるまじきお振る舞いも交じるのであった。
まだ中将などでいらした時は、内裏にのみよく伺候をなさって
(忍ずりのあやのように乱れた、忍ぶ恋心)
でもあるのだろうかと疑い申し上げることもあったけれど、上っ調子の、月並みで、不しつけな色事などは、さほど好ましく思われない御本性で、それでいてまれには打って変わって、気をもむようなことを強いてお心にお留めになる癖があいにくとおありになり、あるまじきお振る舞いも交じるのであった。